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ノーベル科学賞・白川氏 『科学技術立国』に弾み 日本の高分子研究高い評価
 
 日本で科学の分野で六人目のノーベル賞学者となった白川英樹・筑波大名誉教授。昭和六十二年に
利根川進氏が医学・生理学賞を受賞して以来十三年間、受賞が途絶えていただけに、科学技術創造立
国をめざす日本の基礎科学研究にもはずみがつきそうだ。(編集委員 坂口至徳)
 これまで日本の化学賞受賞者は故福井謙一氏(昭和五十六年、当時京大工学部教授)ただ一人。そ
れも、「フロンティア理論」という純粋の科学理論での業績だった。
 しかし、今回の白川氏の業績は、さまざまな高分子(プラスチック)に金属のような導電性をもた
せた物質を実際に合成するという応用科学に近い分野の成果が評価された。
 日本では、繊維、プラスチックなど高分子化学の研究では、伝統があり、世界的な評価を受けてい
る。現在も医用高分子などさまざまな分野で独自の開発をとげ、世界の最先端を走っている。その積
み重ねが花開いた、ともいえる。
 わが国では、基礎科学重視の政策が取られ、予算が増額されたのは、福井氏、利根川氏が相次いで
受賞した一九九〇年以来。個性を重視した教育など独創性を育てるような教育にも力を入れている。
 今回のノーベル賞でも素粒子物理学の益川英京都大教授ら、世界的に論文の引用率が高く、下馬評
に上がっていた日本の学者は多かった。極東にある日本は、欧米中心のノーベル賞から、いまだ遠い
ところにあるのは確かだが、情報技術(IT)によるグローバル化のなかで、日本の基礎科学の再評
価に結びつくことは確かだろう。
 白川名誉教授と共同受賞したのは、米カリフォルニア大のアラン・ヒーゲル教授(64)と、米ペン
シルベニア大学のアラン・マクデアミッド氏(72)の二人。
 二人は白川名誉教授とともに、導電性プラスチックで画期的な高分子化合物の合成で協力した。こ
の研究成果は、太陽光線を遮断するため、携帯電話の画面や液晶画面にも応用される。
 マクデアミッド氏はニュージランド生まれで、アメリカの市民権を持っている。
 白川名誉教授とマクデアミッド氏は東京で行なわれたセミナーの休憩時間に言葉をかわしたのきっ
かけに、ヒーゲル教授も加えた三人による共同研究をスタートさせた。
 
これまでの日本人受賞者
 これまでノーベル賞を受賞した日本人は物理三人、文学二人、平和、化学、医学・生理学各一人の
五部門計八人。今回の白川英樹氏の受賞(化学部門)決定で九人となった。経済学での日本人の受賞
はない。
 過去の日本人受賞者は次の通り。(敬称略、カッコ内は受賞年、部門、受賞時の肩書きと年齢の順)
 湯川英樹(昭和二十四年、物理、京大教授、四十二歳、故人)、朝永振一郎(四十年、物理、東京
教育大教授、五十九歳、故人)、川端康成(四十三年、文学、作家、六十九歳、故人)、江崎玲於奈
(四十八年、物理、米IBM研究所研究員、四十八歳)、佐藤栄作(四十九年、平和、元首相、七十
三歳、故人)、福井謙一(五十六年、化学、京大教授、六十三歳、故人)、利根川進(六十二年、医
学・生理学、米マサチューセッツ工科大教授、四十八歳)、大江健三郎(平成六年、文学、作家、五
十九歳)
 
物理学賞、米露の3氏に
【ストックホルム10日=共同】スウェーデン王立科学アカデミーは十日、2000年のノーベル物理学
賞をロシアのヨッフェ物理技術研究所のジョレス・アルフェロフ所長(70)とハーバート・クレーマ
ー米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(72)、米テキサス・インスツルメンツのジャック・キ
ルビー博士(76)の三氏に授与すると発表した。受賞理由は情報技術(IT)の基礎的業績。
 クレーマー教授は一九六〇年代初め、種類の違う半導体を重ねた「ヘテロ構造」の半導体レーザー
を理論的に提唱した。アルフェロフ所長はこのアイデアを基に室温で動く半導体レーザーを開発した。
 ヘテロ構造半導体の技術は携帯電話やインターネット、衛生通信といった技術革新をもたらした。
 キルビー博士は集積回路(IC)を発明。この技術によってマイクロエレクトロニクスはあらゆる
現代技術の基礎へと成長した。
 半導体の基板に回路を焼き付ける際、複数の素子間を絶縁する技術は「キルビー特許」と呼ばれる。
九〇年代初め、この特許を侵害したとしてテキサス・インスツルメンツが富士通を提訴。今年(2000
年)四月、最高裁で富士通の勝訴が確定した。
 受賞式は十二月十日にストックホルムで開かれる。賞金九百万クローナ(約一億円)のうち半分は
キルビー博士に、残り半分はアルフェロフ、クレーマー両氏に贈られる。
 
ジョレス・アルフェロフ氏
1930年、旧ロシア生まれ。70年、物理学、数学で博士号を取得。87年からヨッフェ物理技術研究所
所長。91年、ロシア科学アカデミー副総裁。
 
ハーバート・クレーマー氏
1928年、旧ドイツ生まれ。52年、物理学で博士号を取得。米国の民間研究機関などを経てカリフォ
ルニア大サンタバーバラ校教授。
ジャック・キルビー氏
1923年、米ミズーリ州生まれ。58年からテキサス・インスツルメンツ社に勤務。78年から85年ま
でテキサスA&M 大学教授を併任。93年に日本の京都賞を受賞。
 
研究者ら功績たたえ
 白川名誉教授らが評価された「導電性ポリマー」の発見と開発の功績。写真フィルムの帯電防止剤
などで利用され、携帯電話の表示画面などへの応用開発なども進んでいるという。その研究分野をよ
く知る足立桂一郎・大阪大教授に、白川名誉教授らの業績の大きさについて語ってもらった。
 「白川名誉教授は、世界で初めて導電性を持つ高分子物質、ポリアセチレンのフィルム状合成法に
成功した研究者。ポリアセチレンはそれまでも、導電性が高いことで知られていたが、空気に対して
不安定な反応を示すため粉状にしか合成できなかった。
 ポリアセチレンは金属と同じくらいの導電性能を持っており、白川名誉教授はそれを初めてフィル
ム状の形状に合成し金属に変わる導電性能を持つ高分子素材の将来性を示した。これは画期的な発見
で、それまで加工可能な高分子物質のほとんどは導電性がなく、むしろ絶縁体と考えられていたが、
これを完全に覆した。
 
 ポリアセチレン最初に合成
 白川名誉教授の発見によって、高い導電性を持つ高分子物質合成の分野は、注目が集まり、専門の
雑誌が発刊されるまでになった。ポリアセチレンのほか、同じ導電性高分子でポリピロールが合成さ
れたほか、理論の研究では導電性高分子が超伝導素材としても注目をあびている。また金属よりも軽
くて、融通性のきく素材なので金属の代替としも注目をあびている。
 この分野での日本の研究は最先端だが、基礎研究の分野で受賞されたのは非常に意義があると考え
る。
 
黒田靖雄・東京理科大学総合研究所(物理化学)の話
 「白川さんは導電性に優れた特殊な高分子のプラスチックをつくる方法を開発した。一般的にプラ
スチックは導電性が悪いが、分子の並び方に着目して、導電性に優れたプラスチックの作り方を開発
した彼の研究は画期的だ。なかなか実用化のめどは立っていないが、材質のアセチレンは地球上に豊
富にあり、この特殊プラスチックが銅線の役割を果たすことも期待されている。」
 
榎敏明東京工業大学教授(物理化学)の話
 「白川さんが導電性高分子のポリアセチレンを合成、米国のヒーガー、マクダイアミッド両氏が合
成高分子の材料として着目し、導電性高分子の物理を大きく発展させた。この分野の研究は最近かな
り盛んになっており、合成金属の国際会議でも大きなウエートを占めるようになってきた。ポリアセ
チレンを最初に合成した白川さんの貢献は非常に大きい。米の二氏との共同受賞は妥当だと思う。」
 
平成12年(西暦2000年)10月11日(水)産経新聞
 
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