Newsメニューにもどる
 
理科教育ピンチ!?
 
 理科離れや学生の学力低下が関心を呼ぶなか、学ぶ内容が三割減る新しい学習指導要領に反対
する声が高まっている。「さらに学力が下がるのは確実」「科学技術立国も危うい」。心配する声
は教育現場から外にも広がる。新指導要領が実施されるのは小中学校で2002年、高校では2003
年から。「実施されたら取り返しがつかない。今年が勝負の年」と反対運動にも熱がこもる。
 
 「世界の小学生が知っていることを日本の小学生が知らなくてよいのか」こんな声とともに「新
指導要領の中止を求める国民会議」に寄せられた署名が五千八百人を超えた。『分数ができない
大学生』を著した西村和雄・京都大教授(経済学)らが「新指導要領は学力低下にとどめをさす」
と昨年三月からホームページで署名を集めている。
 賛同者は教育関係が三分の一。会社員が約二割。ベンチャー企業などの経営者や中央官庁の官
僚もいて、関心のすそ野の広がりをうかがわせる。
 学習指導要領は、小・中・高校でどんな内容を教えるかを定めた教育課程の「国家基準」だ。
文部科学省が約十年おきに改定する。
 今回は、2002年度から始まる学校の完全週五日制とともに「ゆとり路線」をさらに追求し、
小中のほとんどの教科で内容を約三割削った。多くの内容が高校に移った。
 理科では生物の進化や遺伝、イオンなどが中学から消える。高校で理科の各科目は選択になる
ので「十分に学ばない生徒が増える」と心配されている。中学三年間の総授業時間(五十分単位)
も、数学は七十時間、理科は二十五から六十時間へる。中三でみると、理科の合計は米国の約半
分に落ち込む。
 「なんだか戦後の『黒塗り教科書』みたいでしょう?」。先月下旬、東京都内で開かれた「理
科教育カリキュラムを考える会」の集会。都内の公立中で理科を教える男性教諭は、教科書を高
々とかかげた。
 ページごとに透明な下敷きをはさみ、その上から新指導要領削除・移項される項目を油性イン
クで「黒塗り」してあった。
 「遺伝や進化など、重要な理科の法則や概念が欠落している」「つぎはぎだらけで理念のない
改定」。会場から批判が相次いだ。
 大学は「二〇〇六年問題」を警戒する。新指導要領で学んだ学生が入学してくる年のことだ。
 「学力低下のなかで、大学での科学教育自体がひとつの研究分野だ」というのは数学、物理、
化学、生物系の学会でつくる理数系学会教育問題連絡会だ。近く、このテーマを科学研究費の一
分野として新しく認めるような文部科学省の審議会に求める。
 世話人の浪川幸彦・名古屋大教授は講義中、「先生の授業、全然わかりません」と手を挙げた
一年生の言葉に立ち往生したことがある。「一九九四年から日本数学会のなかで学力調査などに
取り組んできたが、学力低下は深刻の一途。一日も早い対応が必要だ。」
 わき上がる批判に文部科学省は神経をとがらせる。新指導要領と学力低下の関係について「教
育白書」の中で、わざわざQアンドA形式で答えている。
 「共通に学ぶ知識の量は減るが、ゆとりをもって繰り返し学ぶことで基礎・基本の確実な定着
を図る。」高校卒業レベルの教育水準はこれまでどおり。」
 初等中等教育局は「数学と理科の学力の国際調査によると、昭和三十九年以降、日本の児童生
徒の学力はいずれもトップクラス。ただ、理科・数学に抱く興味や楽しみでは最低レベル。知識
を詰め込むやり方では子どもの意欲がさらに失われる。」と反論する。
朝日新聞 科学部・理科教育取材班 平成13年(2001年)1月25日(木)
 
Newsメニューにもどる