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ヒトゲノム暗号,35億年かけた進化の複雑さ
少なかった遺伝子の謎・・1つが2つ以上の機能か
 
 人間の設計図である遺伝子の暗号読み取りに続いて,遺伝子の数が日米欧の国際共同チームとベン
チャー企業「セレラ・ジェノミクス」社により明らかになり,英米の権威ある科学誌に掲載される。
この業績の意義,影響について,Q&A形式で紹介する。
 
Q DNA,遺伝子,ゲノムは用語としてどう違うのでしょうか。
A 細胞の核内にある遺伝子を構成する物質の化学名がDNA(デオキシリボ核酸)。ある種のタン
パク質を指定するDNAの集まりが遺伝子。さらに全遺伝子の情報をまとめてゲノムといいます。
 DNAの分子は,塩基と糖,リン酸からなる物質が長い列車のように連結し,二本が一対になって
らせん状に巻いています。この塩基という部分が暗号文字の役割をしていて,A(アデニン),G(グ
アニン),T(チミン),C(シトシン)の四種類。これが三個組みあわさることで意味をもち,細
胞内にある多くのアミノ酸の中から一種類のアミノ酸を選びます。
 さらにこのアミノ酸が,長い塩基の配列通りと連なって,タンパク質の複雑な高分子ができるので
す。
 また,塩基は人間の一つの細胞あたり三十億個も含まれています。つまり,三十億文字で書かれた
本のようなものです。
 
Q 今回,みつかった遺伝子の数は二万六千−四万個と予想の十万個よりかなり少なかったのはなぜ
でしょうか。
A 一つの遺伝子が二つ以上の働きをしていることが予想されます。当初,人間の体内で働いている
タンパク質が約十万個ぐらいあると予想されてきましたが,一つの遺伝子は二個以上のタンパク質と
かかわっているようです。三十億個ある塩基のすべてが意味のある遺伝子配列ではなく,その間に無
意味な配列が挟まって各遺伝子を隔てています。タンパク質の種類を決めるさい,無意味な配列がは
ずれ,意味のある遺伝子どうしがくっついて新たなタンパク質を選ぶという研究もあります。遺伝子
は,生命の部品の背一計図で,それを組合わせる生命のシステムが重要との説も生物学研究のひとつ
の流れになってきています。
 
Q このような複雑な遺伝子のメカニズムはどのようにつくられてきたのでしょうか。
A 今回の研究でも,人間のゲノムのデータと,マウスや細菌などすでに解析済みのデータととをつ
きあわせ,他の動物の遺伝子と同じ塩基配列の部分は,同じ遺伝子とされてきました。
 逆にいえば,人間の遺伝子には三十五億年かけた生物の進化の足跡が残っているわけです。それを
たどれば,生命の発生の出発点にたどりつくのですが,これほど複雑で巧妙なシステムがどのように
して誕生したかについては,なぞです。
 
Q 遺伝子の数が分かれば,生物学,医学を含めどのような分野に影響が出るのでしょうか。
A 遺伝子の塩基配列と,その遺伝子がどの部位にあるかを調べるのは,地味な力仕事ですが,世界
地図を描くように人間全体をとらえる上で,非常に貴重なデータです。
 生物学では,個々の遺伝子の働きを調べることで生命の営みのメカニズムを設計図からひもとけま
す。医療の面では,遺伝子の少しの違い(SNP,一塩基多型)で薬に副作用があるかどうか,体質
が分かってさじ加減ができる「オーダーメード医療」,根治ににつながる遺伝子治療などこれまでに
ない医療が期待できます。
 遺伝子ビジネスでも,がんの遺伝子を狙い撃ちするような効果の高いゲノム創薬の開発が進められ
ており,その経済効果は計り知れません。
 一方では,個人の遺伝的な情報が明らかになることで,生命観も変わってくるだろうし,その管理
をめぐり差別の問題を含め論議されるでしょう。
 
平成13年(西暦2001年)2月15日(木)産経新聞
 
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