IT教育最先端のカナダ
公立の小中学校 全教室がネット接続
 
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 カナダがインターネットを利用したIT(情報技術)教育で,世界の最先端に躍り出ようとしてい
る。先月末,二十五万に上る公立小,中学校の全教室が,世界で初めてインターネットに接続。情報
化と国際化に向けたカリキュラムの改定や官民あげてのネット化推進で,かつてない情報量とスピー
ドを実現しようとしている。明確な国家戦略と教育現場での蓄積は,日本にとって貴重な先例になり
そうだ。
(編集局 景山 通雄)
 「地雷で足が吹き飛ばされたカンボジア人のソン・コソルさんの話を聞いたとき,心臓が止まるの
ではないかと思うほどショックをうけました。ベトナムからの移民の私は,知人や親せきの人たちが
地雷の被害にあった話を家族から聞いていたからです。」
 トロント市の北部にある公立ジョイス小学校。先月はじめに研究発表した「地雷プロジェクト」を
学校のホームページに掲載する作業をしていたリッキーさん(10)は感情を抑えるようにこう話す。
 
官民で幅広いサポート 地雷研究に政府HPも
 
 このプロジェクトは,一九九八年に改定されたオンタリオ州の五年生・社会科のカリキュラムに沿
ったもの。カリキュラムには,カナダに来た移民がカナダの民主主義と市民としての権利と義務を学
ぶことが盛り込まれており,その一環として「罪のない市民の権利を脅かす」地雷問題を研究しよう
というものだ。
 学習で不可欠だったのは,連邦政府をはじめ様々な機関のホームページやメディア,州政府がライ
センスを取得した各種教材の利用。指導に当たっているデビー・ドンスキー教諭は「この勉強には,
世界最大の図書館であるネットの利用がなければ不可能。子どもたちのスキルも格段に進歩している」
という。
 同州のカリキュラムには,情報技術の利用について「そのスキルと知識はエキサイティングで効果
的な学習に役立つ」としているものの,言及はそう多くはない。だが,「情報技術の活用はすべての
学科の基盤になっており,科学や地理,歴史などすべての学習の一部になっている」(オンタリオ州
教育省)という。
 実際,同小学校では新入学児童がコンピューターで朗読を聞いたりお絵かきを行い,二年生の児童
は音楽ソフトを利用して様々な楽器の演奏を聴いたり,音の合成まで行っている。
 これら授業に使われているコンピューターは,児童・生徒が七百人の同市パークディール小学校で
は,計二百三十台。「技術革新に対応するために,各メーカーに協力を仰いでいる」(オタワの小学
校)ケースも多い。
 このような教育現場での幅広いネット活用は,各地の教育委員会をはじめ第三セクターなどによる
幅広いサポート体制下で展開されている。
 そのうちの一つで百五十七校に上がる小,中学校を運営するオタワのカールトン教育委員会。「ク
ラスをダイナミックに変えるには,教師の技能向上が第一」(研修担当のウエンディー・マルタグさ
ん)と,先生のコーチ役養成する一年間の研修を行う一方,ハード,ソフトすべての質問に答える教
師専用のヘルプデスクを常設する力の入れようだ。
 カナダがIT教育のトップに躍り出るきっかけになったのは,一九九七年三月に連邦政府の産業省
が中心になってまとめた「コネクティング・カナディアンズ」計画。経済のグローバル化のなかで競
争力をもつ知的集約型の社会を創設するための国家戦略で,そのうちの柱の一つが「スクールネット」
だ。
 この構想に基づき九九年三月には,全公立学校と図書館が,また,この三月末には全教室がインタ
ーネットアクセスを完了。さらに,二〇〇四年までには,ブローバンド(高速)化を完了する。
 これを見越したソフト開発も進められている。同省付属のコミュニケーション・リサーチセンター
のジョン・スペンス氏は「双方向で高速の情報が大量にやりとりされることは,自分の脳が他の人の
脳とつながること。知的な刺激で創造力が飛躍的にアップし,大量のブルーカラーが,公立小,中ひ
と握りのホワイトカラーと肩を並べることになる」と社会全体のレベルアップを強調している。
 
 日本は3年遅れ 接続率1割
 日本では,検定を終えた小中学校の新しい教科書にも,IT関連の記述が取り込まれた。小学6年
の国語では,インターネットで情報を入手する様子を示し,電子メールやホームページでの情報発信
の方法などを紹介。中学では,技術で,「情報とコンピューター」の学習が必修となり,高校では数
学,物理など科目ごとに扱っていたコンピューター操作が「情報」という新科目に一元化される。
 しかし,IT教育はアメリカやカナダに比べて3年は遅れているとされる。公立の小中高校などで
のインターネット接続率は先月末で75%を超えたと文部科学省は推計するが,専用教室などだけで
接続されているケースが多く,一般教室での接続率は昨年3月末の調査で10.3%に過ぎない。コ
ンピューターを操作できる教員は66%,コンピューターを使って授業ができる教員は32%にとど
まり,教員の教育も緊急の課題だ。
 
平成13年(西暦2001年)4月23日(月)読売新聞
 
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